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東京地方裁判所八王子支部 昭和58年(ワ)415号 判決

原告

ニナ・リッチ

右代表者取締役

ロベール・リッチ

右訴訟代理人

田中克郎

柏倉栄一

家守昭光

中尾淳子

被告

松岡幹雄

主文

一  被告は、被告の営業に関して「ニナ・リッチ」の表示を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一請求の趣旨

1  主文一、四項同旨

2  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  仮執行宣言

二請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二  当事者の主張

請求原因

一  原告の表示、商号及び周知性

原告は、一九二五年(大正一四年)にフランス法により設立された会社で、「NINA RICCI」の商号を用いている。そしてこれを商標として付した香水、プレタポルテ及びアクセサリーの製造販売に従事してきた。原告は、日本においても、昭和三六年頃から「NINA RICCI」及び「ニナ・リッチ」を商号として用い、これらを商標として付した自社または自社とライセンス契約を結んだ会社の製造にかかるオートクチュール、プレタポルテ、香水及びアクセサリー(以下ニナ・リッチ商品という。)を松坂屋を通じて販売しており、昭和五五年末現在、ニナ・リッチ商品全般を取扱ういわゆる「ニナ・リッチ・ブティック」は、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、福岡等全国の主要都市における松坂屋をはじめ有名デパート内のショップ・イン・ショップとして、また東京原宿パレフランス、大阪マルビル等の専門ブティックとして計一八店に達している。また、ハンカチ、スカーフ、ネクタイ、香水などを取扱う「ニナ・リッチブランド商品取扱販売店」は、全国有名デパート内のものも含めて計七〇〇店にも及び、これらの日本における売上高は、年間二五〇億円にも達しており、同年度以降もそれ以上の店舗数及び売上高を示している。ニナ・リッチ商品は、既に昭和五五年末当時、すべての商品が自然で洗練された素材を使用した快く、安らぎ、落着いた、優雅な高級品として、かつパリオートクチュールの創造の精神を常に感じさせるものとして需要者及び取引者間に認識され、後記二記載の被告らの所為が開始される以前の昭和五五年末当時「NINA RICCI」及び「ニナ・リッチ」の表示は、既に原告の商号、標章及び営業表示として広く認識されていた。因みに、原告は、「ニナ・リッチ」または「NINA RICCI」の表示に関し登録商標及び登録出願商標を有している。

二  被告らの表示及び使用態様

被告及び訴外林修太(以下、被告らという。)は、下着としてパンティ・ストッキングのみを着用したウエイトレスを使用するいわゆるノーパン喫茶店(以下、ノーパン喫茶という。)の売り上げが急増していることに目をつけ、「ニナ・リッチ」の表示が日本において優雅で高級なイメージを有することを利用して、被告らのノーパン喫茶の営業による利益を向上せしめることを企図し、その営業表示としてファッション・コーヒーショップ「ニナ・リッチ」の表示を看板等に掲記して使用した。

三  損害

1被告らの右所為は、原告と被告らとがいわゆるライセンス契約等を結んだり、被告らの営業が原告の系列会社の営業にかかるものであるなど、原告と被告らが契約上、組織上、財政上等何らかの関係が存するのではないかと需要者、取引者が誤信するおそれを生ぜしめるものであり、右所為により、原告は、原告が著しく品性の低いノーパン喫茶の営業に何らかの意味で関与しているものと需要者または取引者に誤信されて、原告の信用を毀損された。

2更に、原告は、原告が長年に亘り連綿として築きあげた「ニナ・リッチ」の優雅で高級なイメージを被告らの右所為によつて損われ、将来も損われるおそれがある。

四被告らの右所為により、原告は、少なくとも一〇〇〇万円に相当する損害を蒙つた。

五よつて、原告は、被告に対し、選択的に、民法七一九条一項、不正競争防止法一条一項二号、同法一条の二第一項、または民法七一九条一項、商法二一条一項、二項但書、民法七〇九条に基づき、被告の営業に関して「ニナ・リッチ」の表示を使用しないこと及び金一〇〇〇万円及びこれに対する不正競争行為または商法二一条違反行為以後であることが明らかな昭和五八年四月一二日から支払ずみまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

理由

一被告は、請求棄却の申立をしたのみで、答弁書その他の準備書面も提出しないので、民事訴訟法一四〇条一項により、原告主張の請求原因一ないし三の各事実を自白したものとみなされるところ、右事実によれば、被告の右行為は不正競争防止法一条一項二号に該当する。

二そこで、原告の損害賠償の請求について考察するに、原告の蒙つた逸失利益等の財産的損害については、具体的な主張、立証がないからこれを認めることはできない。しかしながら本件では前記事実に基づくと、被告らの行為により、原告の名声、信用が毀損され、また原告が築いてきた「ニナ・リッチ」の表示に化体された高級なイメージが侵害されたことによる無形の損害が発生したものというべく、これを金銭評価すると、その価額は金一〇〇万円が相当である。

三従つて、本訴請求は、被告の営業に関して「ニナ・リッチ」の表示使用禁止を求め、被告に金一〇〇万円及び被告らの不法行為後である昭和五八年四月一二日から支払ずみまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(安間喜夫 前島勝三 原敏雄)

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